渋沢栄一が歩んだ道 井上 潤(渋沢史料館館長) 北 康利(作家)

2020年に生誕180年、2021年に没後90年を迎え、その生涯がNHK大河ドラマに取り上げられるなど、大きな注目を集めている渋沢栄一。渋沢はなぜ「日本資本主義の父」として歴史に残る偉業を成すことができたのか、渋沢が目指した世界とはどのようなものだったのか。渋沢史料館館長として長年研究に取り組んできた井上 潤氏と、評伝『乃公出でずんば 渋沢栄一伝』を刊行した作家の北 康利氏に、渋沢の歩んだ道、そしていま私たちが学ぶべき教えについて語り合っていただいた。

官と民が一体となって、よりよい国家、社会を実現していくためには、何より民間の力を底上げしなければいけない。渋沢はそのことをものすごく強く感じていた

井上 潤
渋沢史料館館長

 渋沢が若い頃からずっと標榜し続けていたのは、実は「官尊民卑」の打破なんですよ。官と民が一体となって、よりよい国家、社会を実現していくためには、何より民間の力を底上げしなければいけない。渋沢はそのことをものすごく強く感じていた。
 自然災害などが発生すると、私たちはどうしても「なぜ政治家や役所は何もしてくれないんだ!」という思いが先に立ってしまいます。しかし、渋沢はそうじゃない。まず民の自分たちがいま何ができるかを考え、行動しようじゃないかと言い続け、自らがそれを実践し続けた。

一人ひとりが渋沢が示した「乃公出でずんば」の精神、気概を持って自分の仕事なり、人生なりに向き合っていく。「乃公出でずんば」の精神、気概こそ、いま私たちが渋沢から最も学ぶべきことだと思います

北 康利
作家

 渋沢は「政府の役人でも、国会議員でも、実業上より見れば、あたかも影のようなもので、皆実業の反照によって立ち、かつその余光を負うものである」「民が国家を支えてこそ国は栄える。政治家と官僚は縁の下の力持ちであることを自覚し、謙虚であらなければならない」と言っています。
 一人ひとりが渋沢が示した「乃公出でずんば」の精神、気概を持って自分の仕事なり、人生なりに向き合っていく。「乃公出でずんば」の精神、気概こそ、いま私たちが渋沢から最も学ぶべきことだと思います。

プロフィール

井上 潤

いのうえ・じゅん―昭和34年大阪府生まれ。明治大学文学部史学地理学科日本史学専攻卒業後、渋沢史料館学芸員として着任。学芸部長、副館長を歴任し、平成16年より現職。企業史料協議会監事、公益財団法人北区文化振興財団評議員、公益財団法人埼玉学生誘掖会評議員等も務める。著書に『渋沢栄一―近代日本社会の創造者』(山川出版社)『渋沢栄一伝:道理に欠けず、正義に外れず』(ミネルヴァ書房)などがある。

北 康利

きた・やすとし―昭和35年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券業務企画部長等を歴任。平成20年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。『白洲次郎 占領を背負った男』(講談社)で第14回山本七平賞受賞。著書に『日本を創った男たち』(致知出版社)『思い邪なし京セラ創業者稲盛和夫』(毎日新聞出版)など多数。近著に『乃公出でずんば 渋沢栄一伝』(KADOKAWA)がある。


編集後記

いまなお現代人に大きな影響を与え続ける、まさに巨人ともいうべき渋沢栄一。
長年渋沢の研究や史料収集に取り組み、大河ドラマ「青天を衝け」でも時代考証を担当した井上潤さん、この度渋沢の評伝『乃公出でずんば』を上梓した作家の北康利さんのお二人には、渋沢の人生・仕事の核をつくったもの、これからの新しい時代を切り開いていくために学びたい渋沢の珠玉の言葉や教えを紐解いていただいています。
この危機と変化激しい現代社会をいかに生きるかーー、渋沢のメッセージがぎっしり詰まった対談です。

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