医の一道を歩み続けて掴んだ仕事の要諦 佐野公俊(総合新川橋病院副院長) 上山博康(禎心会脳疾患研究所所長)

多くの医者が「治らない」「助からない」と匙を投げた患者さんを〝最後の砦〟として受け入れ、命を救い続けてきた脳神経外科医がいる。佐野公俊氏と上山博康氏である。戦後日本の脳神経外科を牽引し、患者さんのために己のすべてを懸けて病気と闘い続けるお二人に、医療への熱い想い、いまだからこそ後進に伝えたい人生・仕事の要諦を語り合っていただいた。

へばりながらでも続けて、続けて、続けていくと、神様がちょっと甘い汁をくれたり、背中を押してくれます

佐野公俊
総合新川橋病院副院長

上山先生とお話ししてきて改めて思うのは、一流になっていく人は、やっぱり、すべてを捨てて仕事に没頭しているということですね。そして没頭するためには好きなこと、自分に向いていることを仕事にしないといけない。

上山先生もそうだと思いますけれども、私は本当に仕事が楽しくて仕方がなくって、子供たちから「普通のお父さんだったらよかった」って言われるくらい、一日中没頭していました。働き方改革なんて言っていられない(笑)。

藤田保健衛生大学の元総長である藤田啓介先生も、「努力をする者にのみ神の啓示はある」とおっしゃっています。だから好きな仕事に没頭する、努力をしなかったら神の啓示もないですし、人生も開けていかないと思うんです。

たとえ刀折れ矢尽きても歯が残っているなら敵(病気)の喉元に食らいついていくほどの気合いが医者には必要です

上山博康
禎心会脳疾患研究所所長

私も先生と同じ結論になりますが、自分が好きなことじゃないと没頭できないし、続けられませんよね。最近の若い人は世間的に格好いいとか、他人の価値観で人生を決めようとする。それは間違っています。自分が選んだ道だから続けられる。自分の本心に素直になって我儘なほど仕事に没頭できる人を一流というんです。

で、僕は新型コロナやウクライナ戦争が起こって、自分の世界観が変わりましてね。右翼・左翼じゃなしに、これから私たちはより日本人の原点に戻っていくべきだろうと。日本人の原点とは何かといえば、それは己の信じる道、プライドのためなら死ねるという武士道であり、職人気質だと思うんです。日本人にはその原点をもう一度振りかざしてもらいたい。

プロフィール

佐野公俊

さの・ひろとし―昭和20年東京都生まれ。45年慶應義塾大学医学部脳神経外科入局。51年藤田保健衛生大学赴任。同救命救急センター長、藤田保健衛生大学医学部脳神経外科主任教授などを歴任し、平成22年同大学名誉教授、同大学医学部脳神経外科客員教授。総合新川橋病院副院長、脳神経外科顧問。日本脳神経外科学会理事・監事、世界脳神経外科連盟脳血管障害部門委員長など要職多数。12年、13年開発したクリッピング手術数でギネスブックにも登録。現在、主に川崎と名古屋で手術と外来を行っている。

上山博康

かみやま・ひろやす―昭和23年青森県生まれ。48年北海道大学医学部卒業、同部脳神経外科教室に入局。55年秋田県立脳血管研究センターへ転勤。60年北海道大学医学部へ戻り、同部助手、講師などを経て、平成4年旭川赤十字病院脳神経外科部長に赴任。10年より同院急性期脳卒中センター長を兼任。24年より社会医療法人禎心会脳疾患研究所所長。


編集後記

脳外科医として数多くの患者さんの命を救っている佐野公俊さんと上山博康さん。若い頃から積み重ねてきた修練と極限状態の手術を通じて掴んだ仕事の極意を、2時間超にわたって語り合っていただきました。「医の道は武士道に通じる」と説き、まさに命懸けで仕事に打ち込むお二人のメッセージに心を揺さぶられずにはいられません。

2022年10月1日 発行/ 11 月号

特集 運 鈍 根

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