稲盛さんに学んだリーダーの条件 伊藤謙介(京セラ元社長) 小野寺 正(KDDI元社長)

現代の名経営者と謳われた稲盛和夫氏。その生き方・考え方が経営者やビジネスパーソンに留まらず、多くの人々を惹きつけて止まないのはなぜか。稲盛氏と共にそれぞれ京セラ、第二電電(現・KDDI)を立ち上げ、燃え上がるような創業の熱気を分かち合ってきた伊藤謙介氏と小野寺正氏に、稲盛氏の思い出を語り合っていただき、この希有なる人物からいま改めて学ぶべきことを考えてみたい。

いまでも僕は、稲盛だったらこの場面でどう言うかというのが判断基準になっているんです

伊藤謙介
京セラ元社長

〈小野寺〉
大先輩の伊藤さんとこうして対談をさせていただくのは、きょうが初めてですね。

大恩ある稲盛さんについてお話しできるのは嬉しい限りですが、京セラの創業時から稲盛さんと一心同体でやってこられた伊藤さんとは、ご縁の深さにおいてあまりにも差が大き過ぎますから(笑)、きょうは私の知らない稲盛さんのエピソードについてもいろいろ伺いたいと思います。

〈伊藤〉
稲盛が亡くなって、もう一か月以上が経つんですね。いまはとにかく寂しい、残念。それ以外の言葉は思い当たりません。

8月半ばに病床を訪ねるまで、あいにくコロナ禍で3年間くらい会っていなかったんです。その前に2、3人で京都のホテルへ鉄板焼きを食べに行った時に、「痩せたわ、伊藤君」と言っていましたが、実際にかなり痩せていましてね。食も細くなって、あんなに好きだった肉もあまり喉を通らない様子でした。

亡くなる何日か前にお嬢さんが、「皆さんに何か伝えておくことはありますか?」と聞かれると、「もう何にも言うことはない」と答えたそうです。「会社をもうちょっと何とかせい」とか言うならまだしも、何も言うことはないとは、これはかえって責任が重いなと。

希有なる人物の下で仕事をさせていただけたおかげで、私の人生は大きく展開しました

小野寺 正
KDDI元社長

〈小野寺〉
私は稲盛さんに、DDI(現・KDDI)をつくる1年前からご指導いただいてきました。2019年にエリザベス女王から名誉大英勲章KBEを受章されて、イギリス大使館で授章式が行われた時にお目にかかったのが最後でした。お元気なうちにもっといろいろお話を伺っておけばよかったと悔やまれます。

〈伊藤〉
いま強く思うのは、稲盛が仕事を通じて人間いかに生きるべきかを追求し、確立した人生哲学、経営哲学であるフィロソフィの継承です。

現役時代は、フィロソフィが希薄化した時に京セラの命運は尽きると社員に言い続けて、稲盛にも「いいことを言うじゃないか」と褒められたんですけど、稲盛が亡くなったいま、稲盛から学んだ哲学を継承することの重要性を、一層強く実感しているんです。

プロフィール

伊藤謙介

いとう・けんすけ―昭和12年岡山県生まれ。高校卒業後、松風工業入社。働きながら大学で学ぶが中退。34年京都セラミック(現・京セラ)創業に参画。50年取締役。常務、専務、副社長を経て、平成元年社長に就任。11年会長。17年相談役。著書に『心に吹く風』『リーダーの魂』(共に文源庫)『挫けない力』(PHP研究所)、最新刊に『美を伴侶として生きる歓び』(文源庫)。

小野寺 正

おのでら・ただし―昭和23年宮城県生まれ。東北大学工学部電気工学科卒業後、旧日本電信電話公社(現・NTT)に入社。59年、後のDDIの母体となる第二電電企画に転職。平成9年DDI副社長。13年KDDI代表取締役社長に就任。会長などを経て30年に相談役。京セラ取締役、大和証券グループ本社取締役などを歴任。


編集後記

長年稲盛さんの謦咳に接し、その人柄を熟知する京セラ元社長の伊藤謙介さんとKDDI元社長の小野寺正さん。「いまはとにかく寂しい」。伊藤さんのこのひと言に始まり、創業の苦楽を共にしてきたお二人ならではの逸話が数多く披露され、稲盛さんの偉大さを改めて実感させられました。

2022年11月1日 発行/ 12 月号

特集 追悼 稲盛和夫

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